朝、蒲田のホテルで目覚めた私は京急線に乗り羽田空港へ向かった。
今日から夏休み。毎年恒例となっている夏の北海道遠征がいよいよ始まる。
飛行機はあっという間に新千歳空港へとたどり着いた。
で、今まではここからエアポートなり何なりの列車に乗り込んで移動してたわけだが、今回は少しパターンを変えた。
空港より送迎バスに乗り込んで向かった先はレンタルバイク屋さん。
そう、今回の遠征ではバイクをレンタルして夏の北海道を走ろうと考えた。
せっかく普通自動二輪の免許を取ったわけだし、それなら聖地北海道ツーリングをしてみたいと思うのは当然の事だろう。
本当は自分のバイクで道内に来れれば一番なんだけど、さすがにまだそこまでの経験値はないのでレンタルすることにしたのだ。
借りたのはHONDAの400X。今日はこれに乗って函館まで向かう。
ナビが示す所要時間は4時間少しだったけど、安全第一運転でいろいろ立ち寄りながら6時間以上かけて行こうかなと考えていた。
ところで、普段はNinja400に乗っている私がラインナップにNinjaがあるにも関わらずこちらをチョイスしたワケは、このバイクがいわゆるツアラーにカテゴライズされるバイクであり、長距離移動に適したバイクだからというのが大きい。
まぁせっかくだから別のメーカーの別のバイクにも乗ってみたいという気持ちがあったことも否めないが。
さっそく乗車してみると、重さ、足つきなどはNinja400に比べると苦しいものがあるけど、それ以外の乗り心地だったりはこちらの方が断然ラクチンだという事がすぐにわかった。
ギアはスコンスコン入るし、タイヤの吸い付きが素晴らしく安定した走行ができる。
何より乗車姿勢がアップハンドルでストレスフリーな快適さ!
これなら100キロ以上休みなく走ったとしてもほとんど疲れそうもない。
そのツアラー性能に舌を巻きながらの道中でした。
そんな快適ライドに文字通り暗雲が立ち込めだしたのは支笏湖付近までやってきたころだろうか。
ポツポツと空が泣き出し、あっという間にスコール状態に。
来る前に調べた週間予報では滞在中道内はオール晴れになっていて天の神様に感謝したわけだがこの裏切られようは・・・。
普段、雨の中ではほとんど走らないというのに、慣れないバイクでの長距離ツーリングでこの状況では不安しかない。
実際路面はあっという間にビショビショになり、周りの車は水しぶきをあげながら爆走。
それに流れを合わせて乗る私も否応なく普段は出さないようなスピードで付き合わされる羽目に。
正直、山道でコーナーの多い支笏国道において、明らかに私の技量以上のスピードで走らされて怖いったらなかった。
後ろの車が容赦ないからねぇ・・・。いいですね、四輪は安定性があって。
ただ、ここでも400Xの性能が技量不足を補ってくれたのだ。
正直、Ninjaでこの状況の中このペースで走れたかと言われれば怪しいところである。
まぁ求める用途が多少違うってのもありますけどね、それにしても400Xは快適だ。
雨にも、周りの車の暴走にも負けずに走り続けると、もうすぐ洞爺にたどり着くあたりでようやく雨は上がり車の数も減って安心走行ができるようになってきた。ここからようやくマイペースでのんびり行けそうだなとホッとした。
壮瞥温泉という湖近くのパーキングが目に入った時は、ここで記念撮影をしていこうと思い立つくらいの余裕が出来ていた。
だが、まさにこれが余計なことだったとはこの時点では思いもよらなかったのである。
ここまで100キロ弱、昼飯も食わずに走りっぱなしだったけどほとんど疲れはない。
400Xはどこまでも素晴らしいね、と写真を撮って方向展開、道路へ戻ろうとしたその時!
車体を傾けた瞬間、想像以上の重さに一瞬気を抜いていた私の腕はバイクを支えきれなかった。
慌てて踏ん張ったけど、190キロ以上ある重みを支えきれるはずもない。
最後は諦めて手放さざるを得なかった。立ちゴケだ。いや取り回しゴケ?
うわぁやっちまったなぁ、汚れちゃったよ、目立つ傷がついてなけりゃいいけどなぁ。
土の上だし、勢いよく倒したわけでもないので、まだこの時点では深刻には考えていなかった。
教習所で習った通り無事引き起こしも出来たし、ちょっとくらいの擦り傷なら必要以上に咎められはしないだろうって。
しかし地面に落ちているものを見て目が点になった。
・・・これは、、、クラッチレバーの欠片!?
うそーん、折れちゃったのかよ。
あれで折れちゃうのかよ、なんて脆いんだ・・・。
目の前がサーっと暗くなったけど、まぁ短くなっちゃったけど運転に支障は少ないし、クラッチレバーくらいなら後で弁償すればいいやと気を取り直し、走りだそうとしてさらなる異変に気付いた。
エンジンがかからないのである。
なんでやねん!エンジン系統までいかれたと言うのか、あんなちょっと倒れたくらいで!
そう思い車体をくまなく調べてみると・・・その原因がみつかったのである。
これは・・・うん、致命的だわ。なんとシフトペダルが内側に折れ曲がってしまっていた。
これではエンジンがなかなかかからないわけだ。
思いきり踏み込めばおそらく下には行くけど、上には上げることはできない。
つまりギアが1速の状態でこの状況になってしまったら、Nにすら入れることができないわけだ。
この時点で取り返しのつかない状況になってしまったことを理解、ツーリングの中止を決断するに至った。
レンタル店に電話し状況を説明すると、保険屋に電話してあとはお客様でご対応くださいという冷たい返答。
保険会社のあいおいニッセイ同和損保(奇遇にも私個人の契約する損保会社といっしょ)さんに電話し、レッカー移動の手配をしてもらうという初体験を、自分のバイク以外ですることになってしまった。
旅はとん挫。
レッカー車が来るまでに慌てて函館で確保していたホテルをキャンセルし、この後の行程を練り直す羽目になった。
レッカー移動代や車両修理費を払うため一度店舗に戻らなければならず、利便性を考えて今夜は札幌に泊まることにした。
だけどこんなところに取り残されてどうやって千歳まで向かえばいいんだ。タクシーかなぁ。さらなる出費が・・・ハァァ。
やがて1時間もせずにやって来たレッカー車。
その運転手さんが打ちのめされた私に救いの手を差し伸べてくれた。
なんと特例で店舗まで同乗させてくれるって!
捨てる神ありゃ拾う神あるとはまさにこのこと。
お言葉に甘えて乗せてもらうことにした。これでこれ以上の出費はなく最速で千歳まで戻れる。
正直打ちのめされていたのでありがたかったですね・・・。
気まぐれでこんなところで記念撮影しようなんて思わなければ、今頃はもう豊浦を超えて胆振国道に入っていたのかなと考えると悔しくてたまらなかったけど、誰にも迷惑をかけないただの自損事故、いや事故ですらないな、取り回しで倒しただけじゃ、とにかくその程度で済んだと、レッカー手配っていう経験もできたと、かかる損失も授業料だと、そう思い込むことで自分を慰めながら千歳へと戻った。
運転手さん、大変助かりました、本当にありがとうございました・・・。
ああ、あと付け加えるならこんなことになってしまったけど400Xそのものは非常に乗りやすく快適なバイクでした。
ただ重たいので取り回しだけは要注意ってことですね・・・。
レンタル店舗では店員にあからさまな舌打ちとため息を連発されて屈辱を受けながらレッカー移動代5万円+車両修理費1万円ちょっと、合計6万円少し取られてしまい、明日1日分のレンタル料金の半額だけはキャンセルで戻って来たけど、それでもたった数時間の利用で手持ちの金額の半分近くを没収されてしまい、レッカー運転手さんの優しさで少し回復していた心は再び打ちのめされた。
正直今すぐ飛行機に乗って帰りたかった。
もうこの店の無料送迎バスなど利用する気にもならなかった私は、重たい足を引きずって歩いて南千歳へと向かうのであった。
幸い旅はまだ始まったばかり。
最初に嫌なことが起きたけれど、きっとここから巻き返せるはず。
そう信じて・・・。
でもさすがにこの日は札幌に泊まったけれどススキノへ繰り出す気力はなかったなぁ。
明日は予定変更して函館本線で撮影します。